原爆Tシャツ問題の概要
まず、この原爆Tシャツ問題っていうのはどういう事件だったかというと、韓国の人気アイドルグループBTSさんが韓国内でのコンサートにおいて、幸福記念Tシャツを着たという問題です。
幸福記念Tシャツというのは何かというと、背中に幸福記念日、つまり日本から解放されて終戦したぞって大喜びしてる人達の写真が左下にあって、背中の右上には原子爆弾のキノコ雲が描かれていて、愛国心みたいなことが大きな文字でドーンと出ているような、デザイン性の高いTシャツでした。
これが今になって大問題になっているということです。
原爆Tシャツはデザインの範疇にとどまるものであり、アートではない
まずこれはアートとデザインのぶつかり合いなのかっていう話なんですけど、そうとも言える。
なぜかと言うと、T シャツをデザインした人は自分の目線とか、「自分の視野でかっこいいこと」をデザインしたんですよ。だから韓国国内では特に問題にはならず、後になって日本で問題になるということは、視野が人類全体に向いておらず、自分たちの文化的レベルに留まっていたということだと思います。
これは当然ながら原爆投下を賞賛するような文脈で、いくら幸福記念日(日本からの解放が嬉しい、民族にとって特別な日)であったとしても、他者が大虐殺されていく瞬間をそこにプリントするかどうかっていうのは、かなりセンスが問われます。
かつてグローバル化する前であれば、自国の将軍が敵を大虐殺したシーンとか戦争で大勝利したシーンというのは、このように記念プリントみたいなことは多分されたんだろうと思うんですが、現代においては、お互いがお互いを尊重する社会にならざるを得ないわけです。グローバルだから。
その中にあってそういう文脈のものをデザインとして流用した場合、当然相手国は反発する。
日本人でこれを快く思う人はおそらくゼロでしょう。
BTSのファンの皆さんは幸福記念日に焦点が当たっており、原爆投下には焦点が当たっていないのだという反論をされるのですが、焦点が仮にそっちであったとしても、どこどこの民族の大虐殺に成功したみたいな文脈で、そのことを使うのはとても問題があるだろうと思います。
幸福記念Tシャツというのは基本的にはデザインの範疇です。
原爆Tシャツの不謹慎さとアートの不謹慎さの違いは視座や視野の差に表れる
アートにちょっと目を転じます。
アートってよく不謹慎なものが世の中に出回るわけですよ。
例えば、見てイラッとするものの代表が村上隆のフィギュア作品です。
マイ・ロンサム・カウボーイって作品ですけど、等身大のフィギュアで160センチとか180センチぐらいあって、母乳で縄跳びしてる人とか、男性が射精をした白い精液が投げ縄みたいになっている作品です。
そういういふざけんなって作品が出てくるわけですよ。これってどう考えたって不謹慎でしょう。イラッとするわけですよ。
あとマネの作品でいうと、裸婦が服着た男性と一緒に芝生の中に座ってて、こっちを色目で見てるって言う作品があったりするんですけど、マネの作品もものすごい論争になりました。
不謹慎だということで論争になりました。
デュシャンの泉も全く同じです。
便器を美術品と言うなんて、もってのほかだということでやっぱり大問題になりました。
アートはよく不謹慎になるんです。
じゃあ、原爆Tシャツも不謹慎だから同じアートじゃないかというと、そういうわけにはいかない問題がここにあるんですよ。
アートっていうのは前回の続きですが、世界全体、世界そのものを土台に、あなたや私はまだ気づいていないかもしれませんが、世の中はこのように新しくなりましたということを宣言するような作品なんですね。
一方でデザインっていうのは、社会の中で心地よく響くもの、楽しいもの、こういうものをまとめあげる作業になるわけです。
だから視野が今生きてる人に向かっていくのがデザインで、アートは今生きてる人に向かっていきません。その向こう側を目指しているので。
だからマネの不謹慎で不道徳で大論争を起こしたあの作品や、デュシャンの泉という男性用小便器は今では非常に高く評価されたアートになっています。
なぜかというと世の中がそのように変わってきたということを先取りして、提案していたということが分かったからです。
ということで、まさに受け手の問題なんです。
同じく原爆Tシャツもデュシャンの泉も受け手の問題として不謹慎です。
しかし、その表現したものの視座や視野がどこに置かれているのか。
それは我が民族の問題とするレベルなのか、それとも世界全体の安寧とか世界全体の社会構造とか、そういうものに目が向けられているのかという差として現れているというふうに考えたほうがいいと思います。
ちなみにメディア戦略として日韓の対立が煽られているって話なんですが、それは難しいところです。メディアって賢いか賢くないかというのはなんとも言えないところです。
政府が何か命令をしてメディアを扱うということはあまりない。
ただし、今、徴用工問題っていうのが発生していて、なんとなく日韓関係が悪化していく方向に行動が振れていく流れにあることは確かです。
メディアの戦略とまで言い切れるかどうかは何ともわからないという状況かなと思います。
ということで、今回は、韓国の人気アイドルグループであるBTSが原爆Tシャツを着た問題を中心に、アートって、何で不謹慎になっちゃうのかをさせていただきました。
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