人前でスピーチをする際、マイクを使う機会があるでしょう。
見過ごされがちなこの小さな道具ですが、マイクの使い方ひとつでスピーチやプレゼンの印象は大きく変わります。
ここではマイクさばきの大ベテラン、森田一義ことタモリさんを研究することでわかった、マイクさばきと印象操作のヒントについてご紹介しています。
マイク使いの覇者、森田一義
「お昼休みはうきうきウォッチング、あっちこっちそっちこっちいいとも~」
惜しまれながら終了してしまった人気番組『笑っていいとも!』を覚えていらっしゃるでしょうか。安定したマイクの使い手といえば、ハンドマイクを静かに携えていたタモリさんが思い浮かびます。右手にマイクを持ち、いつも変わらぬトーンで話を進めるタモリさんの姿は、ひとめで視聴者に「ああこの人は司会なんだ」という安心感を与えてくれます。
しかし、見た目から与える安心感以上に、どんな場面においてもタモリさんの軽快なトークが私たちに心地よく届いていたことに注目したいと思います。
淡々とした司会進行でも、卓上マイクを挟みゲストと対談をするテレフォンショッキングのコーナーでも。そのいずれにおいても、マイクの声が割れていたり、ハウリングが起きてピー!とうるさくなってしまったりしては、平和なお昼のお茶の間を不安に陥れていたかもしれません。
また、即興でのイグアナやハエのモノマネ、ラップバトルもこなした彼は、身体を駆使する場面においても、マイクのトラブルを起こす事はそうそうありませんでした。
32年弱、国民から愛され続ける番組を届けたタモリさんからは、マイク使いの極意を読み取れるでしょう。
マイクの使い方を意識しよう
1.マイクが動かない。
タモリさんのハンドマイクを持つ姿は、一筆書きで片目をつぶっても絵が描けそうなほど、安定したスタイルがあります。マイクを持っている手の脇をしめ、口にはあまり近づけすぎずに、あごのすぐ下で腕を固定するように持ちます。このように持つと、ほかのタレントとの絡みで多少動いても確実にマイクが音を拾う上、安定した聞きやすい音声を聴き手に届けることができます。
2.マイクのもつ部分を変えない。
マイクは柄の中央部分を握りましょう。ヘッドの部分を握ると音がこもってしまいます。しかし、ナルシストな自分を演出したい時や、囁きボイスで注意を引きたい時には有効です。
ワイヤレスマイクの場合は、しっぽの部分が電波を送信する部分になります。そこを握ってしまうと声が切れたり、嫌なノイズが入ってしまうので、気を付けてください。
3.距離が一定。
マイクとの距離が近づきすぎると、直接息が当たってしまい、「ブッ」「ボフボフ」という音が出てしまいます。こちらを「吹かれ」、または、「ポップノイズ」といいます。自分の声量に合わせて、最適な距離を事前に確認しておきましょう。
また、マイクと口との距離が近いほど音量が大きくなり、低音が強調されます。反対に、マイクとの距離が遠くなると音量は小さくなり、高音が目立つようになります。
メゾ、アルト寄りの太めの声を持つ人は、少しマイクを離して使うと、声が明瞭になります。逆にソプラノ寄りの声の線が細い人は、口にマイクをしっかり近づけて話すと、声に厚みが出ます。
声の大小、高低も各々の個性です。自分の声をよく知り、与えたい印象によって、距離感を調整してみても良いかもしれません。
使うマイクによって変わる、印象の差
マイクの使い方の重要性をこれまではお伝えしました。ここではさらに、どんなマイクを使うかによって、与える印象もコントロールできるというお話をします。
①ハンドマイク+スタンド
身体の前に立てられたスタンドにハンドマイクを挟み、マイクに向かって話しかけるというスタイルです。 結婚式での主賓の挨拶など、フォーマルな場によく見られます。
このスタイルでは、誠実さ・実直さなどを演出することが出来ます。ですが同時に、スタンドによって居場所が固定されるため自分も直立不動になり、お堅い、または画一化された印象を与えがちです。
②ハンドマイクを手持ちする
同じマイクを使っていながらも、手持ちにすることで一気に印象をカジュアルダウンさせることができます。また、居場所が固定されなくなるため、ステージにての移動が可能になります。
『笑っていいとも!』の最終回にて、タモリさんからの最後の挨拶は①のハンドマイクをスタンドに立てたスタイルでした。感謝の想いが込められたスピーチで会場がしんみりしたあと、あのオープニングの曲が流れます。その際、タモリさんはマイクをスタンドから外し、手持ちに変えました。出演者の方を振り返り、会場全体と一緒に踊りながら歌ったことで、場を懐柔させ、笑顔で締めくくるという温かい演出へと繋がりました。
このように、①→②へと応用することで、場の空気をがらりと変えるというテクニックもあります。
③ピンマイク
ピンマイクは、衣服の胸元などに装着して使用する小型のマイクです。芸人の江頭2:50さんが肌の上に直接テープで装着している、あれです。
両手が自由になることで、身振り手振りを加えられるので、聴衆を飽きさせない変化をつけられるようになります。遠目から見ると、(服さえ着ていれば)つけていることさえわからない大きさなので、印象はカジュアルながらもスマートになります。
一方で、口元との距離がほかのマイクに比べて遠くなるため、本番前にボリュームチェックは必須です。ハウリングも起こしやすく、風の強い屋外には不向きです。
④ヘッドセットマイク
③と異なるのは、マイクを装着している、という見た目のインパクトを強く与える点です。保険のCMに出てくるテレフォンオペレーターの女性や、アニメ『ドラゴンボール』でベジータが付けていたスカウターを想像して頂くとわかりやすいでしょうか。近未来的な印象を観客に与えます。
最近では、格式や伝統を重んじる企業でも、新商品発表のプレゼンの場でこのマイクが採用されることがあります。
ヘッドセットマイクも③のピンマイク同様、両手がフリーに使えるようになり、立ち位置も固定されないというメリットがあります。こちらも、細かな音調整は必須になります。ファッションとの兼ね合いも、考慮する必要があるでしょう。例えば和装をプレゼンの衣装に選んだ場合、ヘッドセットマイクを着用していたら多少の違和感を与えるかもしれません。
あくまでも伝えたいメッセージは自分の生の声に込めること
最後に、大切なことをお伝えします。
ハンドマイクを使おうとピンマイクを使おうと、ここで大事なことは、マイクはあくまでも自分の声を届けるための補助的な存在だということです。基本的には生の声で通すつもりで話をする、というマインドを忘れてはいけません。
1998年のNHKの紅白歌合戦にて、和田アキ子さんが『今あなたに伝えたい』という曲で大トリを飾った際、途中でハンドマイクを下ろし、アカペラにて歌い上げるという場面がありました。
「自分の生の声をファンの皆さんに届けたい」という彼女の想いが伝わる、まさに歌のタイトルを体現するような姿が目に焼き付いています。この放送直後には、途中からマイクを離し肉声のみで歌うスタイルが一部歌手の間で流行したほどでした。
聴き手との心の距離を縮め、真摯にメッセージを届けたいという演出には効果絶大なので、声量に自信があれば、会場のキャパシティによっては生声の方が有利であるということも是非覚えておいてください。
まとめ
タモリさんをはじめ芸能人の方は、涼しい顔をして、巧妙なマイクの使い手であったことがおわかりいただけたでしょうか。
せっかくのスピーチの場において、マイクの音響が悪いことにより言葉が耳障りになり、聴き手が心をシャットダウンしてしまっては元も子もありません。自分をどんな風に見せたいか、聴衆にどのような印象を与えたいかも念頭におきましょう。
マイクの使い方や、それが生むイメージ効果まで計算して罠をしかけることも、パブリックスピーキングを成功させるためには必要な装備なのです。
▶併せて読みたい
コメント
[…] […]