バンクシーとは何者か?

評論

バンクシーはなぜ1億5,000万円で落札した絵をシュレッダーで切断したのか?

こんにちは。蔭山洋介です。今日は皆さんにこのリンクの動画をちょっと見て頂きたいんです。

バンクシーというロンドンのアーティストがいるんですけど、そのアーティストが作った「赤い風船を手放す少女」というのがサザビーズで1億5000万円で落札された瞬間に、シュレッダー機能を内蔵していた額によって、切断されていく様子を見て、驚愕する人々を撮影した動画です。

まず見て、ちょっと感想を持って頂きたいんです。これ見ていろんな人がいろんなことを感じているみたいで、例えば、こういうことを感じた人がいるみたいです。

1億5000万円で落札した瞬間に切断されたので、無価値になって残ったのは税金だけだと。それを二次転売みたいな時にお金が作者に入らないことへの怒り、もしくはチャリティーに回らず、高額所得者だけの転売みたいなものに使われている無意味さみたいなものに対する批判を込めて切断したのであるっていう意見があります。

これは確かにその側面はある。ただそれは一重目の意味で、あんまりそこに力点を置かれているように感じないんですよ。

というのはね、ものすごい怒りがそこに込められて切断されているかというと、怒りっていうか、見ていただくと分かると思うんですけど、痛快な笑いがないですか?深いところからすごいことやらかしてやがる、こいつ、みたいななんかあるでしょ。怒りはないわけじゃないですよ。ないわけじゃないんだけど、メインじゃないなと。やっぱり単なる怒りをぶつけるっていう表現でここまでやらないんですよね、人間ってね。

一般的なグラフィティアートに比べてバンクシーのグラフィティアートが違うのは、価値を否定するだけではなく、社会風刺の精神があること

バンクシーのこれまでのことをちょっと振り返ってみると、彼はどういうことやってきたかと言うと、ロンドンの各地もしくは世界の各地の壁面にグラフィティアートって落書きをしていく人たちがたくさんいるんです。ストリートアートと呼ばれるような人たちなんですけど、それって基本的に壁に落書きしたら怒られるでしょ。反社会的な動きなんですよ。ヒップホップとかもそうだし、ラップもそうかな。

グラフィティアートもそうで、基本的には反社会的なストリートからの逆襲みたいな、綺麗に生きてる、価値に対する反価値、価値を否定するみたいな文脈で落書きをしていくっていうグラフィティアートっていう文脈があるんです。その文脈で見ると、バンクシーはまさにその人なんです。

ところが、バンクシーだけはグラフィティアートしちゃうとですね、なんとその壁面の価値が激上がりするわけですよ。壁をどうやって守るのかみたいなことが課題になるぐらいです。

だから一般的な反価値的落書きのレベルを超えた何かをやっているから、そこまで評価されて、アートになっちゃったんでしょう。ただアートにしたかったかどうかはよくわかんないですね、彼がね。ただそういうの一生懸命書いたら高く評価されてしまった。

社会で彼が高く評価された一つの理由は、社会風刺なんですよ。例えば、移民排斥運動の強いエリアで、移民出て行けとか、アフリカに帰れとかっていうシュプレヒコールを上げた絵を書くということで、社会風刺と言うか、そのまま見るとですね、移民出て行けっていう言葉を書いているので、出て行ってほしいんだなという主張に見えるのだが、バンクシーがそれを書くと、意味が逆転して、移民出て行けということの醜悪さと言うか、やばさみたいなものをそこに書くということになっちゃうわけですよ。

意味に意味が重なって逆転して、立体的に見えるってのがバンクシーのすごいところで、それは単なる壁の落書きから、より高度なアートみたいなものに転換しているわけです。グラフィティアートやってる人たちから見ると、あれはグラフィティアートじゃないと。なんかもっと別の事やってるっていう風に見られたりもして、結構批判的に見られたりもします。

だから僕のアーティスト界隈の中でも今回の「赤い風船を手放す少女」をシュレッダーにかけた事件は賛成派と反対派とそれぞれいるっていう面白い状況になっています。

バンクシーが本当に批判したかったのはアートが金持ちの道楽にされていること

僕はこれを見て、どういう風に思ったかっていうと、資本主義っていうものがアートにおいて、特に今大きなテーマなんですね。社会を牛耳っている、社会を動かしているのは資本である。その資本とはなんぞや、社会と資本はどのように関わっているのか、というのが大きなテーマになっています。

その代表作にダミアンハーストのドクロがあったりします。ダミアンハーストの「神の愛のために」でドクロに、実際の人骨にダイヤをはめ込んだやつがあって、それが100億以上するのかな。すごい高いんですよ。それも錬金術、経済自体を遊ぶっていうことをしたアートとして非常に高く評価されています。

今回の作品も資本主義の匂いがプンプンします。まずサザビーズという金持ちの道楽であるように見える場所、そして実際に美的なものを交換すると同時に、単に美的なものを交換するだけじゃなくて、貯金の代わりにアートを買うという文脈もここに垣間見られていて、こういう一連の動きに対する批判みたいなものも込めて、というよりは、さらに言うと、サザビーズさんも、私たちはバンクシーされたようだとかっていう表現をしていて、サザビーズというオークション会社そのものもアートキャンバスとして大きく捉えたコンセプトアートを彼はやってのけているように見えるんですね。

つまり彼がアーティストとして高く評価されているのは、単なるグラフィティアーティストではなくて、コンセプトアーティストとして社会全体とか資本主義とか、そういうものを見事に捉えようとしているからなんですね。

バンクシーは1億5,000万円の絵を切断したことで、さらに価値を高めることに成功した

さらにもうちょっと面白いこと言うと、この「赤い風船を手放す少女」の細切れになった絵画は、1億5000万で取引されたわけです。税金で3千万円かかりました。無価値になったって騒いでいる人達がいるんですけど、全く逆です。

切断されたというニュース性により、おそらくこの絵画の価値はですね、10倍は軽く超えるような額がこれからついてくるだろうと思われるような重大なエポックになる作品を世に送り出したっていうことで、切断されたまま今後各美術館を回ることになるぐらい大きな作品になりましたので、買った人最高です、という状況が発生しているという、経済全体を相手取った非常に面白いアート作品が世に出てきたなと思います。

ということで、今日はバンクシーについてお話をさせていただきました。

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この記事を書いた人
蔭山 洋介

スピーチライターとして、上場企業経営者など多くのリーダー層のスピーチを執筆している。ベビースターが好き。

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